気ままな読書ライフ

気ままな読書日記

三屋清左衛門残日録

夏休み明け第一週目の通勤本。先日のヨガの本はさらりと読んで、後半はこの藤沢周平氏の「三屋清左衛門残日録」を読んだ。

三屋清左衛門残日録 (文春文庫)

三屋清左衛門残日録 (文春文庫)

 

 

以前、宮城谷昌光氏の随筆かなにかを読んだときに、藤沢周平では本書と「蝉しぐれ」の二冊のことを讃嘆されていたので、いつか読みたいと「読みたいリスト」に入れておいたのが、やっと思いが達成できた。

 

藤沢周平ファンは周りに多いと感じるが、自分はこの宮城谷氏の随筆を読むまでは、一度も関心をもったことがなかった作家さんだった。藤沢周平ファンからは、「もっと早く読めよ!」と言われそうだが、いまボチボチ読書の幅を広げているところなのです(笑)。

 

少し読んでみて、藤沢さんのは時代小説なんだなとすぐに分かった。以前読んだ磯田道史氏の「司馬遼太郎で学ぶで日本史」で、歴史文学は「歴史小説」「時代小説」「史伝文学」に大別されると述べられていて、「そ~なんだ」と電球が頭にともった記憶がある。

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

「司馬?太郎」で学ぶ日本史 (NHK出版新書 517)

 

 

史実に忠実に書かれているのが「史伝文学」・・・宮城谷さんの「三国志」なんかは史実に忠実に書かれているということなので、これに分類されるのだろうか。そして、史実に基づいたものではない創作の歴史ものを「時代小説」と分類されていた。まさに、藤沢小説はこの「時代小説」にあたるのだと思った。そして、その司馬遼太郎氏の小説は、ある程度史実に忠実でかつ創作も加えられた「歴史小説」に当たると磯田氏は述べていた。

 

藤沢氏との初の御対面。最初の1ページ目からとても読みやすいと感じた。短編の連作形式で、一つひとつの短編を楽しみながら、トータルとして一貫したストーリとしても大きく楽しめる。通勤読書にはもってこいの形式だ。それに、扉をひらいた瞬間からもう江戸時代の情景が目に浮かんでくる。繊細な文章表現で、自然の情景なんかもとても美しく表現されているなぁと藤沢氏の文章自体にも感心した。

 

主人公の三屋清左衛門は、用人として藩に仕えていたが、仕えていた藩主が死去したこと機に、新藩主に願い出て隠居生活に入る。隠居生活に入って悠々自適を楽しもうと考えていたようだ。一仕事終えた安堵感を味わいつつ、城下周辺を散策し、ときには鳥を刺し、ときには釣り糸を垂れと、そういう生活を期待していたようだ。こういう生活は、勤め人には理想と言える。

 

ところが、その予想とは反対に、藩内の派閥抗争に絡む問題、また藩内に勃発する様々な問題の相談を受けるなど、多忙な日々を送る様子が物語として描かれる。事件性のあるストーリ展開は、読者をまったく飽きさせない。

 

それに、江戸時代の話とは言え、けっこう現代の勤め人にいろいろと共感できる内容を含んでいる。どちらの派閥につくかで処遇が変わり、派閥の選択が将来を左右する。派閥間の対立の中には、ドス黒い陰謀がひしめき合っているなどなど(笑)。ときおり現実対比しながら読んでいる自分がいたりする・・・。

 

主人公の三屋清左衛門は、元用人だが、このポストは現代で言えば人事部秘書課的なポストだろうか。Wikiの説明には、「用人は、主君の「公的な用向き」を藩内・家中に伝えて、相手方と折衝して庶務を司ることを役目とする。」とあったから、それに近い職種だろうと思う。

 

人望も厚く、中央にも詳しく、しかも人脈もある。それで、隠居後つまり退職後も、様々な事件についての相談を受けるのである。まぁ簡単に言えば巻き込まれやすいポストでもある。しかし、その役職柄、中立的冷静な判断力もあって、主人公は一つひとつの事件を解決していくのである。

 

このような小説を書く藤沢氏は勤め人経験者なのだろうか?そういう疑問が生じ、これを少々調べてみた。はじめは中学校の優秀な教師だったようだが、当時の不治の病とされていた肺結核にかかって教師を辞め、入院・療養生活、なんとか復帰して業界新聞社転々としたあと、日本食品経済社と言う会社で、食品記事の編集長をしたと書かれていた

ということで、自らの勤め人経験が作品にいかされたというようなわけではなく、たまた江戸時代も現代も本質がかわらないだけなのだと変な納得ができたのでした。

 

藤沢周平氏の経歴で肺結核のことが書かれていたが、療養のために入院した病院が、比較的近くにある病院であったことが分かった。その病院は、あのアニメ「となりのトトロ」でさつきとメイのお母さんが入院していた病院のモデルとなった病院でした。

 

これを知って、「うちの近くにとなりのトトロのモデルになった病院があるんだぜ~」という自慢のほかに、「うちの近くに藤沢周平が入院してた病院があるんだぜ~」という自慢のネタが増えたのも、本書を読んだ収穫のひとつでしょうかね(笑)。

 

 
 
 

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