「自分のための人生」というなんとも当たり前のように思えるタイトルだが、本書はまさにこのテーマについて一貫して述べられている。人生が「自分のため」でないケースがあるのかというと、それが実のところ往々にしてあるようだ。むしろ、自分のために人生を歩んでいないケースが多いからこそ、この本に意味があり価値があるのだと思われる。
今回読んでみて、少なくとも自分は大いに啓発を受けた。今年読んだ本の中で、現時点のベスト本といってもよいくらいだ。ということは、恥ずかしながら「自分のための人生」を歩んでいない自分に大いに気付かされたということだ。 しかし、このことは有効であると思う。なぜなら著者は、その気付きに対する対策までも示してくれているから。
著者のウェイン・W・ダイアー氏は、心理学の博士であり、経験豊かな精神分析家でもある。ウェイン氏は、マズローの5段階欲求説をベースにおいて、それを発展させた形で本論についても述べられているようだ。
マズローの5段階要求説は有名だが、復習すると底辺部から頂点へかけて、「①生理的欲求」「②安全欲求」「③社会的欲求」「④承認欲求」「⑤自己実現欲求」の5段階構造であり、①~④は欠乏欲求、⑤については存在欲求と言われこの実現者は少ないと言われる。本書の「自分のための人生」を生きることの効果は、この頂点の「自己実現欲求」を満足させることにあると思われ、その実現者の具体的な姿が最終章(第10章)において示されていた。
また心理分析家として、臨床経験も豊富なようで、そういう事例がところどころに説明のため紹介されていたし、あるテーマについて読者がどういう立場なのかが理解できるように、そのテーマに関するチェック項目が示されている。「次に示したことにあなたが該当することことがあるなら、あなたは〇〇だ」というような具合だが、そのチェック項目としての例示がするどい。最初に白状したように、ことごとくこの例示項目に該当してしまう自分がいたのである。さすが心理分析のプロだ。
本書の冒頭部分で、「幸運」と「幸福」の違いについて述べられていた。「幸運」というのは外からくるものとし、「幸福」というのは心がけ次第、すなわち選択によるものだと著者はいう。仮に競馬で大穴を当てて大金を手中にする「幸運」に恵まれたとしても、それを自身の「幸福」に変えるか、「不幸」に変えるかは、心がけ次第だ、選択によるものだという。
いつもあまり意識せずに使っているこの「幸運」と「幸福」の言葉の定義が本書のエキスのようである。つまり「選択」というのが最も重要なキーワードのようだ。自分ですべてを選択する人生こそが、「幸福」につながる人生であり、すなわち「自分のための人生が幸福な人生だ」という結論だ。マズロー的に言えば、「自己実現の人生が幸福な人生だ」ということだろう。
第1章では、一歩進む「勇気」について述べられている。人生は束の間だと。
「憂鬱な気分など自分の感情の部分って結局どうしようもないんじゃないの」という問題提起に対し、感情は自分が「選択」できるものであると著者は主張する。
「自分の意志で自由にできること」が思うようにならない場合は、悩むことも反省することも有効であるが、「自分の意志で自由にできないこと」が思うようにならない場合にそれを悩むのは時間の無駄だという。例えば他人の評価などは、自分の意志で自由にできないこと」であり、それに時間を費やすのは全くの無駄だと断言する。
「過去に起きてしまったこと」への後悔や、「未来」への不安なども同様だという。できるか否かは別として、なんか日頃グズグズ考えてしまうようなことがスッパリ整理されてしまうように感じるのである。
確かに精神疾患など病気による鬱などの感情は、単純に意志の持ち方だけで解決するものとは思わないが、快方へのヒント的な要素はあるように感じる。
第2章では、自分の価値について。自分の価値は自分が決める!ということ。
第3章では、自立ということについて。自立と依存のことが述べられている。ここは大事なところだと思う。
「他人に認められたい」=これはマズローの第4の欲求だ。誰にでもある。だけども、「認められないともう何も手付かずになってしまう」とか「認められることだけを考えて本来の自分を殺して生きて行く」なんてことになってくると、これはもう「幸福」とは言えない。
子どもに親の承認を要求する。「親の言うことを聞きなさい」なんてのは、その不幸を助長するものだ。こういう親の支配が、昨今当たり前になってきている。親の勘違いが子供をどんどん不幸にしていくリスクが巷に横行している。
第4章では、「できない理由を探すな」ということ。ここも鮮烈だった。「自分はもう歳だから」「自分は〇〇だから」などというレッテル化は、結局は逃避であり、自身の成長を止めるものだと。なるほど~とうなずかざるを得ない(苦笑)。
以下、概ねこれらのタイトルにエッセンスは込められているが、その本文中には「目からウロコ」的な記述が満載である。自身も今回は、多くセンテンスを抽出した。
第5章 過去にとらわれない人の強さ
第6章 失敗を土台に成功する
第7章 なぜ他人の評価が気になるのか
第8章 一日、一年、一生を忙しく生きる
第9章 怒る心から自分を解放する
そして、第10章に、それらを完ぺきマスターしているような人物が世の中に存在するかという自問に対し「いる」と自答している。そしてそのような人物の特徴を列記している。はっきり言ってスーパーマンのような人物像である。
しかし自分にも思い当たる人がいる。自分自身が思い当たる人について、その列記された特徴を照合してみた。確かにすべてが該当していた。不明点などなく明確に該当している。それは本書が信用できる一番の証拠でもある。
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