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生きるための図書館

最近発刊された(2019年6月20日第1刷発行)だったばかりの本だったのと、題名に興味を惹かれ、図書館に予約を入れた。3冊同時に予約本が到着したが、その中では「選択ミス」だなと思った1冊だった。

 

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

生きるための図書館: 一人ひとりのために (岩波新書)

 

 図書館の活用法が紹介されているのかと思い、「自分の知らない最近の活用法が紹介されているかもしれない」と期待して読み始めたが、確かにそのようなことも書かれていたが、どちらかというと、これまで図書館の発展や図書館サービスの充実に長年従事されてきた著者(なんと!90歳を超えて今も情熱を燃やし続けておられる)が語る図書館の歴史とこれからの期待であった。

 

公共図書館が充実してくるまでの歴史、特に「こどもと読書」ということに視点を絞っての図書館サービスの発展の歴史が紹介されていた。日本図書館協会理事をつとめられた著者が、それまで見てこられた中で、特に基礎作りに貢献された3名の活動や苦労などが紹介されていた。

 

ひとりは「ノンちゃん雲にのる」の著者石井桃子さん。次に「日本親子読書センター」を設立された斎藤尚吾さん、そして「親子読書地域文庫全国連絡会(「おやちれん」と略すらしい」結成の中心者広瀬恒子さん。もちろん、自分は全く一市民であるので、作家の石井桃子さんの名前しか存じ上げなかった。

 

ともかく何事もそうだが、活動の先駆者というのはいろいろな苦労がある。石井桃子さんは作家としての広い見地から、海外からの情報を日本に取り入れ、子どもの読書の振興に貢献されたということを知った。

 

子どもたちへの本の読み聞かせ活動などが進んでくると、「学校の勉強に直接関係のない、読み聞かせや、子どもに本を読ませることなどは、時間の無駄だ、勉強の妨げになる」などと反対意見を述べる親が出てきたりする。今どきのモンペ(モンスターペアレント)と変わらない親は、いつの時代もいるものだと不快感を感じながら、先駆のご苦労に敬意を表したくなった。

 

市民から作り上げられたネットワークも発展してくると、だんだん「子どものため」という視点など本来の趣旨が忘れ去られていき、運営者の自己満足化に発展したり、上から目線の活動に流されていったりと、どんな組織にもありがちな問題に陥っていく様子も記されていた。きっとこの問題は、こういうネットワーク運営の問題だとか、図書館運営の問題の前に、家庭の中での親子の関係の問題と共通する重要な問題なのだろうなと感じた。

 

後半では、これからの図書館像や、東日本大震災など震災時に図書館が果たした役割の大きさなどの紹介、そしてこれからの図書館サービス、とくに図書館サービスに関わる司書や図書館員の役割などについて述べられていた。

 

本書はどちらかという運営者側の方々が中心読者ではないかと思う。そういう意味では「選択ミス」であったが、日ごろ図書館を利用させていただく一市民としては、どういう思いで図書館サービスを運営されているのかを知ることができて良かったと思う。

 

目に見える貸出サービスなどの裏側では、「選書」という見えない重要な仕事があるのだと初めて意識した。どんな本を選ぶかは各図書館の顔であり、「選書」には図書館に関わる人たちで選書会議などを開いて検討されているとのこと。逆に考えれば、市民の意見をたくさん発信していけば、よりよい「選書」につなげていくことができるのだなとも感じた。

 

データとして面白かったのは、日本の公立図書館数が2017年現在で3273館あるとのこと。そしてその資料費総額は292億8174万円だそうだ。つまり人口費でいうと一人当たりの費用は229円ということになるそうだ。

 

単純に考えれば、自分自身に1年に229円の本を配給してもらっているということだ。日頃多く図書館を利用している自分は、平均以上の利用をさせてもらえているお得感を感じることができた(笑)。

 

資料費の予算は現在削減傾向にあり(1999年は367億円もあったそうだ)、どんな本が図書館に並べられるかも貴重であるなと感じる。

 

それともう一つは、司書という方の存在を意識したことがあまりなかった。運営者側では、司書という専門的な知識を持つ人の必要性が強調されていた。利用者としては、その専門性をもっと利用させて頂くべきなのだなということを直感的に感じた。

 

「選択ミス」と感じた本も、読んでみれば収穫は必ずある。

 

 
 

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