文系の背伸び 「ロウソクの科学」を読んでみた
2019年10月9日、リチウムイオン電池の開発で、吉野彰氏が「ノーベル化学賞」を受賞した。本書はその吉野氏の愛読書であったということで、書店店頭では瞬く間に売り切れになった。「売り切れ」といわれると読みたくなるのが心情で、絶対読めるkinle本で読むことにした。
なかなか面白そうな表紙なのでワクワクしながら読み始めたが、やはり「文系」の背伸びには少々しんどかった(笑)。
本書の内容は、158年前の1861年のクリスマス休暇に、ロンドンの王立研究所で催された連続6回のマイケル・ファラデー氏の講演の記録だそうだ。その記録を取った人は、クルックス管の発明などで有名な物理学者ウィリアム・クルックス氏だ。
ファラデー氏といえば、電磁誘導や電気分解の法則などを発見した歴史上もっとも著名な科学者の一人だ。そのファラデー氏が、クリスマスに「さて、少年少女諸君、まずはじめに皆さんに、ロウソクが何で作られているかお話しましょう」と講演を進める。つまり、聴衆には、若い未来の科学者たちがたくさん集まっていたということだ。
講演といっても、読み進めてみると、これは公開実験のようである。会場に実験器具を用意し、熱を加えたり、発生した気体を捕まえたりしながら、生成物がなんであるかの証明をしてみたりと、聴衆に疑問を投げかけ、推理を促し、それが正しいかどうか確認し、皆で納得しながら講演を進めていく。
ただし、悲しいかな本書の記録は、若干のイラストはついているものの、実験器具の構成や、実験の手順、化学反応の様子、生成物の様子などは、すべて文章で説明されている。ファラデー氏の話言葉そのままなのである。
実験を目の前で見ているならマジックショーを見るように楽しいだろう。しかし、この文章を読みながらその様子を想像するのは、特に文系の人間にはきついものがある。
それでなくても、もし自分がこの講演の場にいたら、3回目くらいからは落ちこぼれて、居眠りをこいていた自信はある。
だが、科学好きの将来の科学者の卵たちは、キラキラと目を輝かせファラデー氏の話にのめり込んでいったのだろう。吉野彰氏もきっとそんな好奇心全開で本書を読んでいたのですね。
ファラデー氏は、子供たちに「一本のロウソクに例えられるような人になろう。ロウソクのように周りにいる人々の光となって輝いてほしい。」というメッセージで講演を締めている。
吉野氏はその実践者代表だ。
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