気ままな読書ライフ

気ままな読書日記

介護のお勉強

今年の10月から介護職の資格取得の学校に通っている。初任者研修というコースで、昔のヘルパー2級資格取得相当の研修だ。土日コースに通っているが、土日ともに授業がある週も何週か続き、しかも10:00~17:00までと終日授業があるため、なかなかのハードロードである。

 

親が介護の年齢となり、介護老人福祉施設(いわゆる特別養護老人ホーム)や、介護老人保健施設(通称「健老」)に入所することとなり、その入所手続きを行ったり、また実際に介護職の方々から様々な介護サービスを受けている。一般のサービス利用者の立場から、介護サービスを見ていたのと、実際に介護職員として業務を行う立場で受ける授業とでは、全く視点が異なる。

 

介護の関係の書籍も3冊ほど読んだ。

 一つは「介護再編」という本。

 本書の副題には、「介護職激減の危機をどう乗り越えるか」とあるが、その背景には要介護人口の激増という問題がある。本書の帯には、「2025年には介護士が38万人不足!」とも書かれている。

 

本書の冒頭に「団塊の世代」(1947年生~1949年生)が75歳の後期高齢者になるのは2024年でその数806万人。つまり、4~5年後に、要介護人口が激増する予測である。
これに対し介護に携わる人の人口は、現状のペースでいけば38万人も不足するという実態予測である。しかも現行の介護現場における質の問題、処遇の問題、制度の問題など山積であり、不安材料を山のように抱えたままそのような現実に直面する可能性を訴えていた。
 
本書の著者の一人は、そいういう事態を一刻も早く改善したいと考える厚労省官僚の竹内和久氏であり、もう一人も同じ考えを持つ介護事業経営者の藤田英明氏である。竹内氏は1971年生まれ、一方の藤田氏も1975年生まれということで、両者はこの介護業界の仕組みについて最も精通しており、しかも若い頭脳で、現状の実態、特に抱えている多くの課題について網羅的に把握されており、その解決に向け現在進行形で精力的に取り組まれている。さらにはこの世界を夢ある世界へと変えていこうとの展望をもって先進的な提言を行っていた。
 
もう一冊は、岩波新書
総介護社会――介護保険から問い直す (岩波新書)

総介護社会――介護保険から問い直す (岩波新書)

 

 著者は、制度にも詳しく、最新の介護保険制度の解説を踏まえながら、現在の実態や、課題点などを浮き彫りにしてくれていた。介護職員の処遇の問題と利用者のコストの問題は、非常に大きな問題だと感じる。

 

利用者側からすればなるべく低コストで介護サービスを利用したい。介護の問題は「年金」の問題と類似したところがある。親の年金制度を子の世代が支えているように、親の介護を子の世代が行う。年金の支え手がどんどん減少し、支えての負担が増加傾向にある。同様に、介護にもコストがかかる以上、支えての負担は増加傾向にある。しかも負担が大きいからと言って「や~めた」とは言えないところが過酷である。

 

一方、介護職員の人数が少ないことから、介護職員の業務的な負担は大きい。人手が足りない=職員一人当たりの労働負担が大きいという構造だ。業務をマルチでこなさねばならない。しかしながら、介護保険制度の財源は乏しく、職員に分配される報酬は少ない。現状の介護職員の報酬は、膨大な業務量をこなしながら全く報いられていないのが現状である。

 

昨今、介護保険料の増額が予定されているが、そうすると利用者としての負担が急激に大きくなり、これまた負担増の恐怖をもたらすのである。

 

もう一冊読んだのは、ベテラン介護職員が執筆されたこの本。

介護ヘルパーは見た (幻冬舎新書)

介護ヘルパーは見た (幻冬舎新書)

 
本書の特徴は、著者の介護職員としての実経験に基づく100ケース以上の事例を題材として、介護現場の実態を生々しく浮かび上がらせている。もちろんプライバシー等には十分に配慮されて書かれている。
 
本書の題材となっているケースは、いずれも一般的な常識を超えたケースばかりだ。しかしながら、これは介護の世界の常識のようでもある。従って、介護の現場に無知な人からすれば、介護の現場の苦労は想像もつかないだろう。逆に、介護の現場の実態を知った者、あるいは正しく理解しようと思う者にとっては、この著者がいかにこの分野のスーパーウーマン的存在であるのかもわかるはずだ。
 
ケースのほとんどが「認知症」と関係している。劣悪な環境と言われてきた介護の現場にあって、制度の整備、環境の整備、施設やツールの整備などでも改善は進められているのであろうが、本書を読んで、それらの改善と並行で、やはり介護職員の技量の向上が重要であると感じた。その技量の主軸となるのは人間的なキャパ、すなわち包容力、忍耐力、利他的な心等であるのだと、著者の振舞から感じられた。
 
当然、制度改善が求められるけれども、本書の著者の言い分は、現場に無知なものが制度だけをいじくるのは、介護職員にとっても利用者にとっても好ましくないということだ。制度改革のこの問題は、どの分野でもいえることだが、得てして望むとおりにいかないというジレンマが付きまとう。

 

利用者の立場から、お世話になっている介護職員の働きぶりに心から感謝の気持ちがわいてくると同時に、これからくる要介護人口がピークを迎える時代に、何か貢献できないものかと考えたりもする。

 

昨日、ベテランの介護職の方にこのような状況について話をお聞きする機会があったが、さすがに先を見ておられた。団塊の世代後期高齢者となるに備え、介護人口を増やし、施設を整備するとしても、その先また高齢者人口の減少時代が来ると、今度は準備した人材や設備が余剰となってくることになるとも言われていた。

 

なるほど、現在の空き家問題と同様のことが起こりうるとも思われる。

難しい問題だけれども、大事な問題であると実感している。