「思考力」外山滋比古
冒頭、ベーコンの「知識は力なり」という言葉と、デカルトの「我思う故に我あり」という言葉が対比的に紹介される。
これまでの物理的なパワーに対し、多くの知識を身に着けることこそが「力」であると主張したのがベーコンの革命的な発想であった。そのベーコンに対し、考えること、すなわち思考することは、それに勝る「力」であるという趣旨で、デカルトの言葉を紹介する。
昨今の知識偏重的な教育についても、苦言を呈している。この知識偏重型の教育を受けてきた世代にとっては、白か黒か、善か悪かといった単純な形でしか答えを見出せないというようなことを指摘する。すなわち既存の判断基準を知識として覚え込んで、それをもとに判断するので、応用力がないというのだ。自分で考えないというわけだ。
この「自分の頭で考えよ」というのが本書においての根幹となる著者の主張であると思う。
知識はいくらでも借りてこれる。いくらでも蓄積できる。しかし自分で考えたものではない。結局、使いこなせない知識に埋もれた「知識メタボ」となるというのは、著者があちこちでよく言われていることである。それよりも自分の頭で考えよ。答えの無いところからスタートせよというのが著者の主張である。そういう意味では、失敗をする経験も大事な収穫であるという。失敗を避けて、石橋をたたきながら、規制の答えの中から人生を選択していくより、失敗も経験として、自分で考え、自分で選択し、成功も失敗も自身のものとしていこうというのが著者のメッセージであると思う。
いろいろと著者の体験談が紹介されているが、そのほとんどすべてが、著者の反骨的な人生の紹介であった。周囲から反対されたり、非難されたとしても、自分が「よし」と考えれば、その方向を選択する。周囲の視線から見れば、「偏屈」とか「へそ曲がり」とかに、映ったことだろう。
しかし、著者にとっては、この「自己選択」の生き方、自分で考えた生き方こそが大事なのだ。