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学校に行きたくない君へ

 「全国不登校新聞」というメディアがあることを初めて知った。このメディアは、全国不登校新聞社の発刊ですでに20年以上の歴史があり、その間一度も欠刊がなかったそうである。


同社の代表理事奥地圭子さんは、1984年から「登校拒否を考える会」を立ち上げ、その翌年にはフリースクール東京シューレ」を開設するなど、早い時期から不登校やひきこもりの問題への取り組みを進めてこられた方である。

 

学校に行きたくない君へ

学校に行きたくない君へ

  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 単行本
 

 

本書は、不登校やひきこもりの経験者がインタビュアとして、その自分が誰の話を聞くことが有意義かということを考えて、その対象者にインタビューを敢行することにより編集されたものである。世間一般の読者受けを考えたインタビューではなく、そのインタビュアーが個人として話を聞きたいと思う人に、その思いをぶつけながら取材をしている点が特長であり、それが本書を熱気の感じられるものにしている。

 

本書の編集長もまた、不登校やひきこもりの経験者だそうだ。そして、インタビューに答えている人たちは、それぞれにその分野で世に認められている人物であったりするが、そこに至るまでに、自らが不登校や引きこもりなどの経験をもち、それを克服して今に至っていたり、あるいは現在も「生きづらさ」と共存しながら戦っている人たちであったり、あるいはそういう生き方に強く理解を示している人たちである。

 

樹木希林荒木飛呂彦柴田元幸リリー・フランキー雨宮処凛西原理恵子田口トモロヲ横尾忠則玄侑宗久宮本亜門山田玲司高山みなみ辻村深月羽生善治押井守萩尾望都内田樹安冨歩小熊英二茂木健一郎

自分としてはもちろん知っている人物も多いが、これまで全く無縁だった人物も含まれている。また名前は知っている人物でも、成功実績などを知るのみで、そこに至るプロセスについては知らなかった人物が多い。

 

本書を読んで、いかに自分は「世間知らず」だったのかというような気持ちになった。「世間を知る」という意味を、勝手な限定的な世界を知ることと勘違いしていたのではないかと感じる。

 

本書の中で、東京大学東洋文化研究所教授の安冨歩氏は、現代人の生き方をポケモンに例えている。つまり自分自身で戦っているのではないと。そして自分自身を生きている人はどこにいるのかという問いに対し、不登校や引きこもりの中にこそいると述べている。

 

上記に登場した、インタビューを受けた側の大先輩たちの話を聞いていると、まさに「自分自身を生きる人」の実感が伝わってくる。であるので、もし現在「生きづらさ」を少しでも感じている人がいたら、本書で心にエネルギーをもらえるのではないかと思う。

 

本書のコラムで自身のひこもり体験を述べている若者が、親から言われて最も嫌だった言葉を列挙していた。
「ふつうにしなさい」
「この先どうするのよ」
「あなたのためを思って言ってるのよ」

 

「ふつう」とは何だろうか?
皆が学校へいくから、行かないのは「ふつう」でないのか?

この独断的な視点をきちんと考え直させてくれるのが本書である。

 

マイノリティが特異な目で見られるという現実に対し、宮本亜門氏は、「マイノリティは人類にとって大切な前例」であり、マイノリティをマイノリティでないものへ変えていく使命ある者と言っている。

 

西原理恵子氏は、「子どもより先に親が何を不安がっているのかを解決した方がいい」と言いきっている。先の言葉(「この先どうするのよ」等)に対する明確な答えであるように思う。

 

それぞれのインタビューのやり取りの中から、自分の誤っていた視点に気付けたり、自分に不足していた本当に正しい視点に気付くことができたりする本ではないかと思う。