気ままな読書ライフ

気ままな読書日記

アンネフランクの記憶

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夏期休暇に入った。というわけで、少し仕事を忘れて、気ままな読書ライフを送ることができそうだ。特にどこかへ行くわけでもなく、起きたい時間に起き、好きな時に冷蔵庫から冷たい飲み物を取り出して、自分のデスクに座って好きな本がいつでも読める、、、これだけで意外と幸福感を感じることができるものだ。「気まま」というのはなんとも素晴らしい(笑)。

 

今日は、先日読み終わった小川洋子さんの「アンネ・フランクの記憶」という本の読書記録を記しておこう。何しろ、数日たつと「どんな内容だったか」がもう思い出せなくなってしまうこの頃である。

 

小川洋子さんの本は、これまでにも数冊読ませていただいたが、精錬された文章を書かれるイメージだ。ファンといえるほど読んでいないけれども、好きな作家さんであることは間違いない。

 

さて、今日は8月4日だが、偶然にもこの日はアンネ・フランクとその家族にとって、重大な事件が起こった日である。1944年8月4日、それまで暮らしていたアムステルダムの隠れ家から、ゲシュタポに連行されアウシュビッツ収容所に送り込まれた日だ。「アンネの日記」は、この3日前の日付で終わっている(そうだ。自分はまだ原書は読んでいない)。

 

小川洋子さんはもちろん「アンネの日記」を読まれている(笑)。

初めて読んだのが中学1年生の時だったそうだ。それからご自身も日記の中で、自己表現することを知り、それが作家業へとつながったそうだ。そして作家となった著者は、自身の心の友であるアンネ・フランクの生涯にふれることができる地を実際に訪れていたいと思い、アムステルダムの隠れ家を訪問し、当時のアンネを知っている人たちに直接話を聞き、そしてアンネの命を奪ったアウシュビッツを訪れるというツアーを計画した。この本は、その紀行文ではあるのだけれども、その中に小川洋子さんの心の友人・アンネに対する思いが込められた書でもあるように感じられた。

 

アンネを知る人との対話の一人めは、「アンネの日記」の中でヨーピーとして登場するアンネのユダヤ人中学時代の友人。もう一人は、「思い出のアンネ・フランク」の著者であり、アンネの父オットーの会社に就業してたというミープ・ヒースさん。

 

アンネを知るお二人との対話をしているときの著者は、ひたすら心の友アンネに対する想いを深めたいという気持ちが表れていた。アンネが生き生きと暮していたころの話を聞き、それを聞く著者も明るく、またその様子を紙面で読む我々も明るい気分で読み進めることができた。

 

しかし、後半アウシュビッツを訪れるところからは、アンネの存在感は消えてしまい、ナチの人種差別による強制収容・大量虐殺の悲惨な光景が、著者の施設訪問とレポートによって再現される。


「ただ単に人を殺すだけでなく、人間の存在を根こそぎ奪い去っていったナチのやり方がこの小さな子供用品を見ていると、わずかでも実感できる気がする。名前、メガネ、髪の毛、ブラシ、尊厳、人形、命、彼らは徹底的に合理的にすべてを強奪した。」

 

強制収容所では、名前を登録され、メガネを外され、髪の毛を削がれ、所有のブラシやバッグやくつなどがすべて捨て去られ、それらが大量に廃棄された想像しがたい山の光景は、いまインターネットの写真でも確認することができる。

 

何の罪もない人々や、アンネの家族のように普通に幸せに暮らしていた家族から、尊厳を奪い、命を奪い去った。無残に、しかも機械的に。

 

こういう事実は、人類の記憶からは絶対に消し去ってはならないものだろう。小川洋子さんのそういう思いは、行動によって本書に結実されたのだと思う。

 

夏休み、「読んでよかったな」と思える本に出会いたいものだ。

 

 

アンネ・フランクの記憶 (角川文庫)

アンネ・フランクの記憶 (角川文庫)