雑談:デジタルな息子とアナログな親父
社会人となりIT関連企業に勤めることとなった息子の部屋には、入ることはないが、時々ドアの隙間から見える様子では、自宅にも立派なIT環境があるようだ。PCが数台、タブレット端末、スマートフォン、その他おそらく快適な環境が整っているはずだ。なるべく身体を移動しないで済むことは、極力端末操作で済ませる主義らしい。
一方、これまで採用から定年退職まで一本で勤めてきた会社をこの3月末に卒業し、「介護職」という新たな人生経験にトライしてみた自分は、ここ2か月ほどPCなしの生活を送ってきた。これまで勤めてきた会社では、デスクワークであったためすべての業務にPC処理が関わっており、一日の生活時間の何割もPCの前で過ごしてきた。
それが、この新型コロナの影響で、一日にまったくキーボードを叩かない日々をここ2か月ほど過ごしてきたのだ。実は自分の部屋にも、息子が使わなくなったノートPCがあったのだが、世間がテレワークとなり、息子の会社も当然のごとくテレワークとなり、これまで借りていたノートPCを息子がテレワーク用に使うこととなったからだ。
特に介護職にPCは必須ではなく、これを機に完全アナログな生活が始まった。それと同時に、アナログな「読書ノート」をつけ始めた。近くの100円ショップで、ページごとに「日付」を書き込める日記にふさわしいノートを数冊仕入れてきた。ともかく読書のかたわらに「読書ノート」を置いて、メモを取ったり、気に入った言葉を抜き書きしたりしている。
黒のボールペン、赤のボールペン、修正テープ、ラインマーカ、これだけで楽しいアナログ読書日記が綴られていく。下手でも自筆の文字になぜか愛着を感じる(笑)。キーボードで叩けば直ちに漢字変換してくれるが、アナログ日記となると自分の頭で漢字変換せねばならない。ボケ防止になるべく漢字で書く努力をする。出てこないときは、スマホで変換してみて、それを手書きで書く。意味のわからない単語が出てきたら、これまた調べてみる。
最近やっと図書館が貸し出しを開始し、新型コロナ対策による閉鎖前に予約していたカミュの「ペスト」の貸し出しの順番がやっと回ってきた。少々出遅れ感もあるが、夜勤明けの昨日から読みだした。 アルジェリアのオランという町で発生したペストの物語だが、その発症のきっかげが「鼠」である。そしてペストの症状として「鼠頸部(そけいぶ)」に痛みが出てくる。
「鼠」という文字がさっそく書けない(TT)。これまでなら「ネズミ」と書いて済ませていたところだ。はたまた「鼠頸部(そけいぶ)」って体のどの部分を指すのだ?・・・無知による疑問がわいてきて意味を調べてみる。股関節あたりなのか・・・。
完全アナログ生活になってから(息子にノート端末を返してから)、ずいぶんアナログ日記のページが増えている。これをパラパラと見返すのがなんとなくまた楽しい。気の利いた言葉にラインマーカを引いたりしてみると、アナログページが彩られる。最近では、メモの頭に赤のボールペンで自分なりに「見出し」をつけてみたりしている。学生の頃の講義ノートの記憶が懐かしくよみがえってきた。
ボールペンにかけられる筆圧にも自分なりの納得感が必要なようだ。自分は細いペン先駄目のようである。筆圧をかけられないとなぜかストレスを感じてしまう。
「ペスト」の順番が回ってくるまでは、吉川英治の「宮本武蔵」を再読していた。これも青春小説で、若いころに何度も読んだ小説だが、定年の年になって再び読んで見たい衝動にかられたからだ。Kindleに全8巻合本完全版というのがあり安く入手できるが、読み進める達成感を味わうため実際には「青空文庫」で読み進めている。
青空文庫では、「序」の巻から始まり、「地の巻」「水の巻」「火の巻」・・・と分冊されているの「分冊」を読み終えるごとに達成感が感じられるし、「読書日記」でも書き分けができてよい。「風の巻」では、あの京の名門、吉岡道場との対決シーンが満載だった。
兄清十郎との蓮台野の戦い。弟伝七郎との蓮華王院での戦い。そして、門下全員vs.武蔵の一乗寺・下り松の壮絶な決闘シーン。戦いの第一のクライマックスが描かれると同時に、いつもすれ違いだった武蔵とお通のプラトニックな恋が気持ちの上で成就する、そういうもう一つのクライマックスシーンもこの「風の巻」には描かれていた。吉川英治は、日本を代表する文豪であるなと改めて実感。
そうこうしているうちに、東京アラートが解除され、息子の会社のテレワークも終了となったようだ。またノートPCを戻してくれた。今日は、久々にマイルームにPC環境を再びセットし、こうしてブログを更新している。
息子は「極力移動しない」生活から、通勤というアナログな勤務形態に戻らねばならないようだ。一方、介護職というテレワークとは一切無関係な仕事の自分は、趣味の読書生活に若干デジタルが戻ってきそうである。